神社の入り口で必ず目にする建造物、鳥居。私たちは普段何気なくくぐっていますが、その形や意味について深く考えたことはありますか?
実は鳥居には多様な形の違いと種類があり、それぞれに興味深い鳥居の由来が隠されています。例えば、代表的な明神鳥居と神明鳥居の違いや、鳥居の色が持つ意味、さらには形から読み解く男性と女性の象徴など、知れば知るほど奥深い世界が広がっているのです。
また、赤い鳥居は良くないという噂や、伏見稲荷大社などで見られるたくさんの鳥居の意味についても、この記事でスッキリと解説します。神社巡りが100倍楽しくなる鳥居の知識を、一緒に深めていきましょう。
鳥居の形や意味の基本を解説

神話にさかのぼる鳥居の由来

鳥居はいつ、どのようにして生まれたのでしょうか。その起源については様々な説がありますが、最も広く知られているのは日本最古の歴史書「古事記」に記された神話に由来するという説です。
これは、有名な「天岩戸(あまのいわと)伝説」に基づいています。弟神の乱暴に心を痛めた太陽神・天照大御神(あまてらすおおみかみ)が天岩戸にお隠れになり、世界が闇に包まれてしまいました。
困り果てた八百万の神々は、天照大御神を外に誘い出すため、岩戸の前で様々な儀式を行います。その一つとして、常世長鳴鳥(とこよのながなきどり)という鶏を集めて鳴かせました。
このとき、鶏が止まったとされる横木が「鳥居」の原型になったという考え方です。「鳥が居る木」が転じて「鳥居」となったとするこの説は、神聖な場所の入口を示す鳥居の成り立ちとして、非常に象徴的です。

まさか日本神話が由来とはびっくり。かなり古い歴史があるのね
【豆知識】その他の鳥居の起源説
神話由来説の他にも、鳥居の起源にはいくつかの有力な説があります。例えば、日本の城郭や屋敷の門として古くから存在した「冠木門(かぶきもん)」という二本の柱に一本の横木を渡しただけのシンプルな門が、神社の聖域を示すために転用されたという建築由来説。
また、インドの仏教施設に見られる「トーラナ」や中国の「牌楼(ぱいろう)」、朝鮮半島の「紅箭門(こうせんもん)」など、海外の聖域の門が仏教などと共に日本に伝来し、独自の形に変化したとする海外渡来説も存在します。
はっきりとした定説はありませんが、いずれにしても鳥居が古くから神聖な場所への入口を示す重要な門であったことがわかります。
このように、鳥居の由来は一つに定まっていませんが、古くから神様の世界への入口として、また神様の存在を示す象徴として、特別な意味を持つ建造物であったことには変わりありません。
神域を示す結界としての役割

鳥居は単なる「門」ではなく、神社の神聖さを保ち、私たちが神様と向き合うための準備をする上で、大きく分けて3つの大切な役割を担っています。
言ってしまえば、鳥居は神様がお住まいになる神域のお宅の玄関のようなものです。ここから先は神聖な領域ですよ、という境界線(結界)を示しています。私たちが鳥居をくぐる前に一礼するのは、「お邪魔します」という敬意を表し、心を整えるための大切な作法なのです。
鳥居が持つ3つの主な役割
- 結界としての役割:神様がお鎮まりになる聖なる空間「神域」と、私たちが日常を暮らす「俗世」とを明確に区切る境界線の役割を果たします。鳥居をくぐることは、聖域へ入るという意思表示になります。
- シンボルとしての役割:遠くからでも「ここに神社がある」と知らせる、まさに神社の看板であり象徴です。国土地理院が発行する地図記号にも採用されており、日本人にとって最も分かりやすい神社のシンボルと言えるでしょう。(参考:国土地理院「地図記号の由来」)
- 浄化装置としての役割:あまり知られていませんが、鳥居をくぐることで、私たちが知らず知らずのうちに身につけてしまった心身の穢れ(けがれ)を祓い清めるという意味合いもあります。清らかな状態で神様にご挨拶するための、いわば浄化ゲートの役割です。

鳥居をくぐる瞬間に、どこか背筋が伸び、清々しい気持ちになるのは、この結界を越え、お清めをいただく力があるからかもしれないね
そうね。今まで何気なく鳥居をくぐっていたけど、こんなにも深い意味があったのね

鳥居の形の違いと種類を分類

全国各地の神社に立つ鳥居は、一見すると同じように見えるかもしれませんが、注意深く観察すると、その形には驚くほど多くのバリエーションが存在します。
しかし、どれだけ複雑に見える鳥居も、その基本的な構造に注目すると、大きく2つの系統に分類することができます。それが、直線的な部材で構成された、素朴で凛とした印象の「神明(しんめい)鳥居」と、曲線的な部材が用いられ、優美で華やかな印象の「明神(みょうじん)鳥居」です。
この2つの系統を基本として、祀られている神様(天津神か国津神かなど)や神社の歴史、神仏習合の影響、地域の特色などが加わり、一説には60種類以上もの鳥居に細分化されると言われています。
まずは、この2大系統の基本的な違いを理解することが、鳥居の多様な世界を知るための、そして神社巡りをより楽しむための第一歩となります。

60種類!?どれも同じだと思ってた
神社に行ったときには鳥居をよく見てみると、それぞれ違うことが分かるはずだよ

明神鳥居と神明鳥居の違いとは

「神明鳥居」と「明神鳥居」は、鳥居の2大系統であり、その構造には誰でも見分けられる明確な違いがあります。
これを知っておけば、訪れた神社の鳥居がどちらの系統かを一目で見分けることができ、その神社の成り立ちや祀られている神様について思いを馳せるきっかけにもなるでしょう。
最も分かりやすい違いは、一番上の横木である「笠木(かさぎ)」が、空に向かって反っているかどうかです。直線的なら神明鳥居、優美な反り(反り増し)があれば明神鳥居と、大まかに判断することができます。

見分けるポイントを確認しましょう
一番上の横木「笠木」と、そのすぐ下にある「島木(しまき)」という部材に注目してみてください。神明鳥居は笠木一本だけで、全体的に直線的です。
一方、明神鳥居は笠木と島木の二重構造になっていて、美しいカーブを描いているのが特徴です。この違いがわかると、一気に鳥居通になれます。
比較項目 | 神明鳥居(しんめいとりい) | 明神鳥居(みょうじんとりい) |
---|---|---|
全体の印象 | 直線的・シンプル・素朴 | 曲線的・装飾的・華やか |
笠木(一番上の横木) | 直線で反りがない。断面は丸や四角。 | 両端が天に向かって反っている(反り増し)。 |
島木(笠木の下の横木) | ない。笠木一本のみ。 | ある(笠木と合わせて二層構造に見える)。 |
貫(ぬき) | 柱を貫通していないことが多い。 | 柱を貫通して外に突き出ている。 |
柱 | 地面に対し垂直に立つ。 | 少し傾いている(八の字)ことが多い。 |
系統・歴史 | 古い形式。天照大御神など天津神を祀る神社に多い。 | 新しい形式。平安時代以降に仏教建築の影響を受け発展。 |
代表的な神社 | 伊勢神宮、靖国神社 | 伏見稲荷大社、厳島神社、明治神宮 |
このように、神明鳥居は日本の神社の原形ともいえる古い形式で、天照大御神を祀る伊勢神宮がその代表です。
一方で、私たちが「鳥居」と聞いて一般的にイメージすることが多いのは、平安時代以降に仏教建築の影響を受けて発展したとされる明神鳥居の系統であり、全国の多くの神社で採用されています。

ちょっと難しいな。でも頑張って覚えるぞ!
鳥居の形にみる男性と女性の象徴

鳥居の形について、その構造を男性的なエネルギーと女性的なエネルギーの象徴として捉える非常に興味深い見方があります。
これは学術的な定説というわけではありませんが、神社の特性を理解するための一つの解釈として古くから語られてきました。具体的には、二本の柱を水平に貫く横木「貫(ぬき)」が、柱の外に突き出ているかどうかに着目します。
貫の形状による象徴の解釈
- 男性的とされる鳥居:貫が柱から力強く突き出ている形。主に明神鳥居系に見られます。この形状は外向きのエネルギーを象徴するとされ、漁業や狩猟、武運といった男性的な神様を祀る神社に多い傾向があるとされます。
- 女性的とされる鳥居:貫が柱の中にすっきりと収まっている形。主に神明鳥居系に見られます。こちらは内向きのエネルギーや受容性を象徴するとされ、農耕や安産、縁結びといった女性的な神様を祀る神社に多い傾向があるようです。
あくまで解釈の一つとして
この「男女の象徴」という見方は、全ての神社に厳密に当てはまる絶対的なルールではありません。神社の歴史や祀られている神様の神格は非常に多様であるため、参拝の際の楽しみを広げる豆知識として捉えるのが良いでしょう。
しかし、このような視点で鳥居を観察してみると、これまで気づかなかった神社の持つ雰囲気や、祀られている神様の性格について、新たな発見や親しみを感じることができるかもしれません。

知れば知るほど神社って面白い!
もっと詳しく!鳥居の形と意味の深掘り知識

赤色だけじゃない?鳥居の色の意味

鳥居といえば鮮やかな「赤(朱色)」を思い浮かべる方が圧倒的に多いですが、実は鳥居の色は決して赤だけではありません。祀られている神様のご神格やその土地の風習、歴史的背景によって、日本全国には実に様々な色の鳥居が存在するのです。
それぞれの色には、赤色と同様に、あるいはそれ以上に深い神聖な意味が込められています。
色のバリエーションとその意味
- 白色の鳥居:白は、神道において最も神聖な色の一つとされ、神様の清らかさや純粋さ、神聖さを象徴します。有名な例としては、島根県の出雲大社の巨大な白い鳥居(現在はコンクリート製)が挙げられ、その存在感は圧巻です。
- 黒色の鳥居:京都の嵐山にある野宮神社(ののみやじんじゃ)などで見られる「黒木鳥居」は、クヌギの木など樹皮を剥がさずにそのまま使ったもので、日本最古の鳥居の形式と言われています。その素朴で原始的な姿は、古代の信仰の形を今に伝えています。
- 木の色(素木)の鳥居:皇室の御祖神である天照大御神を祀る伊勢神宮に代表されるように、塗装をせず木材そのものの色や木目を活かした鳥居も多くあります。自然との調和を重んじ、凛とした神聖な雰囲気を醸し出しています。
この他にも、金運アップで知られる京都の御金(みかね)神社の金色の鳥居や、水の神を祀る神社に見られる青い鳥居、さらには石造りの鳥居など、そのバリエーションは多岐にわたります。
鳥居の色に注目することで、その神社の個性や大切にしている信仰の形が、より鮮明に見えてくるはずです。

木の色はイメージつくけど、白とか黒とかいろいろあるのね。金色の鳥居は見てみたいな~
赤い鳥居は良くないという噂の真相

時折、インターネット上などで「赤い鳥居は良くない」「稲荷神社は怖い」といった話を耳にすることがありますが、これは全くの誤解であり根拠のない噂です。むしろ、鳥居の赤(朱色)には、古くから伝わる非常にポジティブで強力な意味が込められています。
なぜなら、朱色は古来より魔除け・厄除けの力を持つ神聖な色とされてきたからです。この力で、災厄や邪気が神域に入り込むのを防ぐという重要な役割を担っています。
また、朱色は太陽や炎、生命の源である血液の色でもあることから、生命力や活力、生産力を象徴する色とも考えられてきました。

それはそうよね。赤い鳥居が良くなかったら、どこの神社も行けなくなっちゃうもんね
鳥居が朱色である主な理由
- 魔除け・厄除けの効果:古代から邪気を払い、災いを退ける力があると信じられているため。
- 生命力の象徴:太陽や火を象徴し、神様の広大なご神徳や生命力を表す意味合いがあるため。
- 防腐・防虫の実用的な効果:朱色の塗料の原料である「辰砂(しんしゃ)」、または酸化鉄を主成分とする顔料には、木材の腐食を防ぎ、虫害から守る効果があります。これにより、木造の鳥居を長持ちさせることができました。
特に稲荷神社で赤い鳥居が多いのは、ご祭神である稲荷大神様の豊穣や商売繁盛といった広大なご神徳を、生命力あふれる朱色で表しているためです。
伏見稲荷大社の公式サイトでも、朱色は「生命、大地、生産の力強さを表す色」と説明されています。(参考:伏見稲荷大社「よくあるご質問」)
このように、赤い鳥居は不吉どころか、神聖な場所を守り、私たちに生命力を与えるための、非常に縁起の良い大切な色なのです。
なぜ?たくさんの鳥居の意味を解説

京都の伏見稲荷大社に代表される、無数の鳥居がトンネルのように連なる幻想的な「千本鳥居」。この息をのむような光景は、日本を象徴する風景として海外からも多くの人々を惹きつけていますが、これには人々の深い信仰心がはっきりと表れています。
結論から言うと、あのたくさんの鳥居は、願い事が叶ったことへの感謝のしるしとして、全国の崇敬者から奉納されたものなのです。この鳥居を奉納する習慣は、特に稲荷信仰において江戸時代以降に大きく広まりました。
これには、日本語ならではの言葉遊びも関係していると言われています。つまり、願い事が「通った(とおった)・通る(とおる)」ことへの感謝や祈願と、鳥居のトンネルを「通る(とおる)」ことをかけているのです。
自分の願いが神様に通ったお礼に鳥居を奉納し、その鳥居をくぐることで、さらにご利益をいただくという、素晴らしい信仰のサイクルが生まれています。
あの美しい朱色のトンネルは、決して装飾のためだけに作られたのではなく、一人ひとりの「願いが叶いました、神様ありがとうございます」という、純粋な感謝の気持ちが積み重なってできたものなのですね。

そう思うと鳥居をくぐるたびに、より一層神聖で温かい気持ちになれそうだね
どこまでも続く千本鳥居って神秘的で素敵よね♪

一度は見たい全国の珍しい鳥居

日本全国には、基本的な神明鳥居や明神鳥居の形式からさらに発展した、非常にユニークで一度見たら忘れられないような珍しい鳥居が存在します。ここでは、その中でも特に有名な3つの鳥居をご紹介します。旅の目的地に加えてみてはいかがでしょうか。
三柱鳥居(みはしらとりい)
京都府京都市にある木嶋坐天照御魂神社(このしまにますあまてるみたまじんじゃ)、通称「蚕ノ社(かいこのやしろ)」の境内で見ることができる、日本でも大変珍しい鳥居です。
その名の通り、3本の柱が正三角形を構成し、3つの鳥居が合体したような不思議な形をしています。中央には神座が設けられ、宇宙の中心を表しているとも言われるミステリアスな雰囲気から、屈指のパワースポットとしても人気を集めています。
三ツ鳥居(みつとりい)
埼玉県秩父市の霊山、三峯神社にある、独特の形状をした鳥居です。大きな明神鳥居の両脇に、さらに小規模な脇鳥居が連結したような形をしています。
奈良県の大神神社(おおみわじんじゃ)などでも見られる形式で、「三輪鳥居(みわとりい)」とも呼ばれます。三峯神社の非常に強い神様の力が、この独特の形で表現されているとも言われています。
双龍鳥居(そうりゅうとりい)
東京都品川区の品川神社の入口に立つ鳥居は、見る者を圧倒する大変な迫力があります。なんと、柱に龍の精巧な彫刻が巻き付いているのです。
向かって左の柱には天に昇る「昇り龍」、右の柱には天から降りてくる「降り龍」が彫られており、立身出世や運気上昇の強いご利益をいただけそうな、力強い雰囲気に満ちています。

珍しい鳥居は奇抜なデザインというわけではなく、その神社の独自の信仰や歴史、祀られている神様の性格を反映してるんだ
鳥居ひとつひとつに昔の人たちは思いを馳せていたのかな。ロマンチックね

まとめ:鳥居の形と意味を知り参拝へ
この記事では、神社の象徴である鳥居の形や種類、色や由来に込められた様々な意味について、基本的な知識から少しマニアックな情報まで詳しく解説しました。最後に、記事全体の要点をリスト形式で振り返ります。

鳥居の形の意味を理解出来たら、さっそく神社参拝へレッツゴー♪